AIリスクとは?企業が知るべき主なリスクと対策・管理の進め方を解説

AIを業務で使い始めたものの、どのようなリスクがあるのかを整理できていない方も多いのではないでしょうか。情報漏えいや誤った回答のニュースを見て不安になっても、自社で何から備えればよいのかが分からない場面もあるはずです。
この記事では、AIリスクの意味・業務で起きやすいリスク・社会に広がるリスク・対策・管理の進め方を、総務省と経済産業省のAI事業者ガイドラインに沿って解説します。
記事を読めば、自社が備えるべきリスクと、最初に取る対策が分かる状態です。結論は、AIリスクはゼロにはできず、リスクの大きさに応じて対策の強さを変える考え方が基本です。まずは社内で使っているAIと用途を洗い出しましょう。
AIリスクとはAIの開発と利用で生じる不利益のおそれ
AIリスクの基本は、以下の3つで押さえます。
- 自社だけでなく社会に生じる不利益も含む
- 生成AIの普及でリスクが多様になった
- AIを使わないことも1つのリスクになる
自社だけでなく社会に生じる不利益も含む
AIリスクは、AIの開発や利用によって生じる不利益のおそれです。AI事業者ガイドラインは、事業者に生じる不利益だけでなく、関係する人や社会全体に生じるリスクも検討の対象になると説明しています。
誤った情報で顧客に損害を与える場合や、偏った判断で特定の人が不利に扱われる場合が例です。
生成AIの普及でリスクが多様になった
ガイドラインは、生成AIの普及で偽の情報や誤った情報の生成と発信などのリスクが多様になり、増えていると指摘しています。多くの生成AIのサービスで使い始める障壁が下がり、意図しない使われ方をするおそれもあります。
IPAの「情報セキュリティ10大脅威2026」では、AIの利用をめぐるサイバーリスクが、組織向けの脅威の3位に初めて選ばれました。
AIを使わないことも1つのリスクになる
ガイドラインは、リスクがあることを理由に、ただちにAIの利用を妨げるものではないと述べています。期待されているのは、リスクを認識し、便益とのバランスを検討したうえで積極的にAIを利用することです。
リスクがゼロになるまでAIを活用しない姿勢も、1つのリスクだと明記されています。使わないのではなく、備えて使う考え方が出発点です。
業務で起きやすいAIリスク
業務で起きやすいAIリスクは、以下の5つです。
- 事実と違う内容を出力する
- 機密の情報が流出する
- 個人の情報を不適切に扱う
- 他人の権利を侵害する
- AIの仕組みが攻撃を受ける
事実と違う内容を出力する
生成AIは、事実と違う内容をもっともらしく回答する場合があります。ハルシネーションと呼ばれる現象です。
ガイドラインは、米国の弁護士が訴訟の資料の作成に生成AIを使い、存在しない判例を引用して問題になった例を挙げています。AIの回答をそのまま使わず、もとの資料で確かめる工程が必要です。
AIのハルシネーションとは?原因と対策・防ぐプロンプトを解説
機密の情報が流出する
AIに入力した機密の情報が出力などを通じて流出することも、代表的なリスクです。ガイドラインは、従業員が機密にあたるソースコードを、個人向けの対話型の生成AIに入力した事例が明らかになっていると説明しています。
会社のルールが整っていない場合、会社の管理の外で、従業員がリスクの高い使い方をするおそれもあります。
生成AIの情報漏洩はなぜ起こる?実際の事例と防ぐ対策・入力後の対応を解説
個人の情報を不適切に扱う
顧客や社員の個人の情報をAIに入力すると、個人情報保護法のルールに触れる場合があります。文字の情報だけでなく、顔写真や録音した音声を扱う機会も増えているのが現状です。
ガイドラインは、顔写真や音声が漏れるリスクが一層高まる可能性があると指摘しています。
AIに個人情報を入れてよい?どこまで大丈夫かを個人情報保護法から解説
他人の権利を侵害する
AIが生成した文章や画像が、他人の著作物に似ている場合、著作権の侵害になるおそれがあります。AIの出力で他者の権利を著しく侵害した場合、損害賠償を請求される場合もあります。
法律や医療など、資格が必要な領域でAIに助言をさせると、法令の違反とみなされる可能性がある点にも注意が必要です。
AIの仕組みが攻撃を受ける
AIの仕組み自体も、攻撃の対象になります。AIへの指示に悪意のある内容を紛れ込ませて、設定された制限を無視させる攻撃が例です。
ガイドラインは、AIエージェントのように多様な情報を扱う仕組みでは、攻撃を受ける範囲が広がると指摘しています。
AIエージェントのセキュリティを徹底解説!10のリスクと企業の対策も紹介
社会に広がるAIリスク
社会に広がるAIリスクは、以下の4つです。
- 偏った出力が差別につながる
- 偽の情報が拡散する
- AIに頼りすぎて判断力が落ちる
- 判断の理由が見えなくなる
偏った出力が差別につながる
学習したデータに偏りがあると、AIの出力にも偏りが生じます。採用や融資の審査など、人の評価にAIを使う場面では、特定の人が不利に扱われるおそれがあります。
AI倫理とは?倫理的な問題の例と原則・企業が取り組む方法を解説
偽の情報が拡散する
ディープフェイクは、生成AIで作った偽の画像や動画を指す言葉です。ガイドラインは、偽の画像がSNSで拡散し、平均株価が一時100ドル以上下落した事例を挙げています。
企業のアカウントが、事件や災害の偽の情報を拡散してしまう事例も発生しています。
AIに頼りすぎて判断力が落ちる
AIの出力を確かめずに受け入れ続けると、人が自分で考える機会が減ります。ガイドラインは、教育の場面で、学生の独自性や批判的に考える力の発展が妨げられるリスクを挙げています。
判断の理由が見えなくなる
AIがなぜ結果を出したのかを、外から確かめにくい場合があります。判断の過程が見えないと、誤りに気づきにくく、説明の責任も果たせません。
人の権利や利益に関わる判断には、人が関わる工程を残してください。
AIリスクへの対策
AIリスクへの対策は、以下の5つです。
- 入力してよい情報のルールを決める
- AIの出力を人が確かめる工程を残す
- 法人向けのAIのサービスを使う
- 社員にAIの教育を行う
- 記録を残して定期的に点検する
入力してよい情報のルールを決める
AIに入力してよい情報と、入力してはいけない情報を決めます。個人の名前・未公表の数字・顧客との契約の内容など、具体例を挙げて示してください。
生成AIの社内ルールの作り方を徹底解説!盛り込む項目とひな形も紹介
AIの出力を人が確かめる工程を残す
AIの出力を、確かめずに社外へ出さない流れを作ります。顧客への回答や契約に関わる文書など、誤りの影響が大きい業務ほど、人の確認が欠かせません。
法人向けのAIのサービスを使う
ガイドラインは、企業向けのセキュリティの機能が組み込まれた、ビジネスの利用を想定した対話型の生成AIも存在すると説明しています。機密の情報を扱う場合は、こうしたサービスの利用が選択肢になります。
個人向けのサービスを業務で使い続ける状態は、早めに見直してください。
社員にAIの教育を行う
ルールを作っても、社員が理解していなければ守られません。AIの仕組みと限界・入力のルール・出力の確かめ方を、全員が学ぶ機会を作ります。
AIリテラシーとは?必要な理由と4つの要素・身につけ方を解説
記録を残して定期的に点検する
AIの利用の記録を残し、ルールが守られているかを定期的に点検します。問題が起きたときに原因を調べるためにも、記録が必要です。
AI監査とは?2つの意味と活用例・AIを監査する進め方を解説
AIリスクを管理する進め方
AIリスクを管理する進め方は、以下の4つです。
- 使っているAIと用途を洗い出す
- リスクの大きさに応じて対策の強さを変える
- 責任者と報告の流れを決める
- 環境の変化に合わせて見直す
使っているAIと用途を洗い出す
最初に、社内で使われているAIと、使っている業務を一覧にします。会社が契約しているツールに加えて、社員が個人で使っているAIも確かめてください。
リスクの大きさに応じて対策の強さを変える
すべての用途に同じ強さの対策をかける必要はありません。ガイドラインは、リスクの性質と起こりやすさに対策の程度を合わせる考え方を、リスクベースアプローチと呼んでいます。
過度な対策は、費用が増え、AIの活用で得られる便益を損なうとも指摘されています。社内の文章の下書きと、顧客の審査では、求める対策の強さを変えてください。
責任者と報告の流れを決める
AIの利用の責任者を決め、問題が起きたときの報告の流れを決めます。誤って機密の情報を入力した場合に、誰に何を報告するのかを、全員が知っている状態にします。
環境の変化に合わせて見直す
ガイドラインは、生成AIのリスクが、外部の環境と技術の動向によって変わると説明しています。新しいツールの導入や、法律とガイドラインの改定に合わせて、対策を見直してください。
AIリスクのよくある質問
AIリスクについてよく出る疑問は、以下の4つです。
- AIリスクとは何ですか?
- AIの主なリスクは何ですか?
- 中小企業も対策が必要ですか?
- リスクがあるならAIを使わないほうがよいですか?
AIリスクとは何ですか?
AIの開発や利用によって生じる不利益のおそれです。自社の損害だけでなく、顧客や社会に生じる不利益も含みます。
AIの主なリスクは何ですか?
業務では、誤った出力・機密の情報の流出・個人の情報の不適切な扱い・権利の侵害・AIへの攻撃が代表的です。社会に広がるリスクには、偏った出力や偽の情報の拡散があります。
中小企業も対策が必要ですか?
必要です。情報の流出や権利の侵害の責任は、会社の規模に関係なく問われます。
入力のルールを決め、人が確かめる工程を残すことから始めてください。
リスクがあるならAIを使わないほうがよいですか?
使わないことも、1つのリスクです。AI事業者ガイドラインは、リスクがゼロになるまでAIを活用しない姿勢もリスクだと明記しています。
リスクを把握したうえで、備えて使うことをおすすめします。
AIリスクは使っているAIの洗い出しから備えましょう
AIリスクは、AIの開発や利用で生じる不利益のおそれです。ゼロにはできないため、リスクの大きさに応じて対策の強さを変える考え方が基本になります。
まずは、社内で使っているAIと用途を洗い出しましょう。入力のルールと人が確かめる工程を整え、環境の変化に合わせて見直してください。



