AIリスキリングとは?学ぶ内容と進め方・使える助成金と給付金を解説

AIを仕事で使う場面が増え、社員に何を学ばせればよいのか、自分は何を学び直せばよいのかで迷っている方も多いのではないでしょうか。助成金や補助の制度も種類が多く、どれが自社や自分に当てはまるのか分かりにくいはずです。
この記事では、AIリスキリングの意味・必要とされる理由・学ぶ内容・企業が進める手順・企業と個人が使える支援制度・注意点を、経済産業省と厚生労働省の公表資料に沿って解説します。
記事を読めば、誰が何を学び、どの制度を使えばよいかが分かる状態です。結論は、AIリスキリングはAIを前提にした仕事へ移るための学び直しで、仕事で使う場面を先に決めると成果につながります。企業は助成金、個人は給付金を使って費用を抑えましょう。
AIリスキリングとはAIを使う仕事に移るための学び直し
AIリスキリングの基本は、以下の3つで押さえます。
- リスキリングは新しい仕事に必要なスキルを身につけること
- AIリスキリングはAIを前提に仕事のやり方を変える学び
- リカレント教育とは学ぶ主体と目的が違う
リスキリングは新しい仕事に必要なスキルを身につけること
リスキリングは、新しい職業に就くためや今の職業で求められるスキルの大きな変化に対応するために、必要なスキルを身につけることです。経済産業省の検討会で示された定義が、広く使われています。
学ぶだけで終わらず、新しい仕事や新しいやり方に移るところまでを含む点が特徴です。
AIリスキリングはAIを前提に仕事のやり方を変える学び
AIリスキリングは、AIを使う仕事へ移るための学び直しを指します。法律や制度で決まった定義はありません。
対象は、AIを開発する技術者だけではない点が大切です。経済産業省のデジタルスキル標準は、すべてのビジネスパーソンが身につける内容としてDXリテラシー標準を定め、生成AIに関する記載を加えています。
事務や営業の担当者が、資料作りや調べものをAIに任せる形へ仕事を組み替えることも、AIリスキリングに含まれます。
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リカレント教育とは学ぶ主体と目的が違う
似た言葉にリカレント教育があります。リカレント教育は、働く人が必要なタイミングで学び直し、学んだ内容を仕事に生かす流れを繰り返す学び方です。
一般に、リカレント教育は個人が主体で、リスキリングは企業が事業の変化に合わせて社員に学ぶ機会を用意する場面で使われてきました。現在は、個人が転職やキャリアアップのために学ぶ場合もリスキリングと呼ばれています。
AIリスキリングが必要とされる理由
AIリスキリングが必要とされる理由は、以下の3つです。
- AIを活用する人材が2040年に約340万人不足する推計がある
- 事務職は約440万人が余る推計がある
- 日本企業はAIを使いこなす人材が不足している
AIを活用する人材が2040年に約340万人不足する推計がある
経済産業省は2026年1月の資料で、2040年の就業構造の推計を示しました。AIやロボットの利活用を担う人材は、需要の782万人に対して供給が443万人で、約340万人が不足する可能性があるとしています。
資料は暫定版で、数値は精査中との注記があります。
事務職は約440万人が余る推計がある
同じ推計では、AIやロボットによる省力化で、事務職が約440万人余る可能性も示されています。推計は、AIやロボットの活用と学び直しが進めば、全体では大きな人手不足は生じないとしました。
余ると見込まれる職種から不足する職種へ、学び直しによって移れるかどうかが課題です。
日本企業はAIを使いこなす人材が不足している
IPA(情報処理推進機構)は、AIの推進で多くの企業が直面する課題として人材を挙げています。不足しているのは、AIを開発する人材だけではありません。AIを活用してサービスを提供する人材と、業務の中でAIを使いこなす人材も足りていない状況です。
外から採用しにくい以上、今いる社員の学び直しが現実的な方法になります。
AIリスキリングで学ぶ内容
学ぶ内容は、立場によって変わります。主な内容は、以下の4つです。
- 全社員はAIの基礎と安全な使い方を学ぶ
- 業務の担当者は自分の仕事にAIを組み込む方法を学ぶ
- 推進役は導入の企画と評価を学ぶ
- 開発を担う人はAIツールを使いこなす技術を学ぶ
立場ごとの内容をまとめると、以下の表のとおりです。
| 立場 | 学ぶ内容 | 学び方の例 |
|---|---|---|
| 全社員 | AIの仕組みと限界・入力してよい情報 | eラーニングや短時間の研修 |
| 業務の担当者 | 自分の業務でのAIの使い方 | 実際の業務を題材にした演習 |
| 推進役 | 導入の企画・効果の評価・ルール作り | 実践型の研修と社内での試行 |
| 開発を担う人 | AIツールを使った開発と設計 | 専門の講座と実務 |
全社員はAIの基礎と安全な使い方を学ぶ
全社員に共通する土台は、AIの仕組みと限界の理解です。生成AIは事実と違う内容を出力する場合があり、入力した情報の扱いにも注意が必要になります。
DXリテラシー標準は、働き手の一人ひとりが学び続けるための指針として作られました。何を学ぶかを決めるときの参考にできます。
業務の担当者は自分の仕事にAIを組み込む方法を学ぶ
業務の担当者は、自分の仕事のどこをAIに任せるかを学びます。議事録の作成・メールの下書き・資料の要約など、日々の作業が題材です。
汎用的な質問の仕方を覚えるだけでは、仕事のやり方は変わりにくいものです。自分の業務の資料を使って手を動かす演習が、定着への近道になります。
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推進役は導入の企画と評価を学ぶ
推進役は、AIの導入を企画し、現場に広げる役割を担います。経済産業省は2024年6月の取りまとめで、DXを推進する人材に求められる力を3つ挙げました。問いを立てる力・仮説を立てて検証する力・評価して選択する力です。
AIが知識や技術を補うほど、何を任せて出力をどう判断するかが人の役割になります。
開発を担う人はAIツールを使いこなす技術を学ぶ
開発を担う人も、学ぶ内容が変わっています。同じ取りまとめは、ソフトウェアエンジニアに求められるスキルとして、AIツールを使いこなす力を挙げました。設計や技術の面でビジネス側を引っ張る上流のスキルと、対人のスキルも挙げられています。
コードを書く作業をAIに任せる分、設計と確認の比重が高まる流れです。
企業がAIリスキリングを進める手順
企業がAIリスキリングを進める手順は、以下の5つです。
- 経営層が目的と対象の業務を決める
- 必要なスキルと対象者を決める
- 学ぶ方法を選ぶ
- 学んだことを業務で使う場を作る
- 成果を確かめて内容を見直す
経営層が目的と対象の業務を決める
最初に、何のために学ぶのかを経営層が決めます。経済産業省の取りまとめは、生成AIの活用が進まない課題の1つに経営層の関与を挙げました。経営層自身が方針を定め、変革を進める人材の役割を定義することが解決の方向とされています。
売上を伸ばしたい業務や、時間がかかっている業務を1つ選ぶところから始めましょう。
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必要なスキルと対象者を決める
次に、選んだ業務に必要なスキルと、学ぶ対象者を決めます。全社員に同じ内容を学ばせる必要はありません。全員が学ぶ基礎と、担当者や推進役が学ぶ内容を分けると、時間と費用を抑えられます。
デジタルスキル標準は、役割ごとに必要なスキルを示した資料です。
学ぶ方法を選ぶ
学ぶ方法には、eラーニング・集合研修・自社向けに作る研修などがあります。基礎は動画で、業務への応用は演習で学ぶ組み合わせも有効です。
経済産業省とIPAが運営するマナビDXには、審査に合格した講座が掲載されています。受講料が無料の講座も探せる仕組みです。
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学んだことを業務で使う場を作る
学んだ内容は、使う場がなければ定着しません。研修の直後に、対象の業務でAIを使う期間を設けます。使ってよいツールと入力してよい情報を、先に決めておくことも必要です。
経済産業省の取りまとめも、人材の教育とあわせて活躍の場を作ることを挙げています。
成果を確かめて内容を見直す
最後に、成果を確かめます。作業にかかる時間や、AIを使った業務の件数など、学ぶ前に決めた目的に沿って測る形です。
成果が出た使い方は社内で共有し、次に学ぶ内容へ反映しましょう。AIの機能は変化が速く、学ぶ内容も定期的な見直しが欠かせません。
企業が使えるAIリスキリングの助成金
企業が使える主な制度は、厚生労働省の人材開発支援助成金です。押さえる点は、以下の4つです。
- 事業展開等リスキリング支援コースは経費の最大75%を助成する
- 人への投資促進コースはデジタル人材の育成に使える
- 汎用的な内容にとどまる研修は対象外になる
- 計画の届け出は研修を始める前に行う
事業展開等リスキリング支援コースは経費の最大75%を助成する
事業展開等リスキリング支援コースは、新規事業の立ち上げなどに伴い、新しい分野で必要になる知識や技能を習得させる訓練が対象です。業務のデジタル化(DX化)に伴う訓練も含まれます。
経費の助成率は中小企業が75%、大企業が60%で、訓練中の賃金の一部も助成される仕組みです。受講者1人あたりの経費の助成には、訓練の時間に応じた上限があります。中小企業の場合は、以下の表のとおりです。
| 訓練の時間 | 経費の助成の上限(中小企業) |
|---|---|
| 10時間以上100時間未満 | 30万円 |
| 100時間以上200時間未満 | 40万円 |
| 200時間以上 | 50万円 |
数値は令和8年8月3日版の資料によるものです。コースは令和8年度末までの期限付きの措置とされています。
人への投資促進コースはデジタル人材の育成に使える
人への投資促進コースは、デジタル人材や高度な人材を育成する訓練などが対象です。労働者が自発的に受ける訓練や、定額制のサービス(サブスクリプション型)による訓練も含まれます。
どのコースが合うかは、研修の内容と自社の状況で変わります。申請の前に、管轄の労働局へ確認すると確実です。
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汎用的な内容にとどまる研修は対象外になる
2026年8月3日の改正で、事業展開等リスキリング支援コースの対象が絞られました。DX化に関する訓練のうち、汎用的なプロンプトの作り方や概念の理解にとどまる内容は対象外です。
営業の担当者が提案書を作る訓練のように、業務での具体的な活用まで踏み込んだ内容が求められます。
計画の届け出は研修を始める前に行う
助成金は、研修を始めたあとからは申請できません。訓練の計画は、開始日の原則1か月前までに労働局へ提出する決まりです。
支給の申請は、訓練の終了の翌日から2か月以内に行います。研修会社を決める段階で、日程に余裕を持たせましょう。
個人が使えるAIリスキリングの支援制度
個人が使える主な制度は、以下の3つです。
- 教育訓練給付金は受講費用の20%から最大80%が支給される
- キャリアアップ支援事業は転職を目指す在職者の受講費用を補助する
- マナビDXは無料の講座も探せる
教育訓練給付金は受講費用の20%から最大80%が支給される
教育訓練給付金は、厚生労働大臣が指定する講座を修了した場合に、費用の一部が支給される制度です。講座は水準に応じて3種類に分かれます。
| 種類 | 支給の割合 | 上限 |
|---|---|---|
| 一般教育訓練 | 20% | 10万円 |
| 特定一般教育訓練 | 40%(条件を満たすと50%) | 20万円(条件を満たすと25万円) |
| 専門実践教育訓練 | 50%(条件を満たすと70%または80%) | 年40万円(条件を満たすと年56万円または年64万円) |
追加の支給は、資格の取得などをして修了後1年以内に雇用された場合が対象です。専門実践教育訓練は、賃金が受講前より5%以上上がると80%になります。
受給には一定の要件があり、申請の窓口は住所を管轄するハローワークです。AIの講座が指定されているかは、厚生労働省の教育訓練講座検索システムで調べられます。
経済産業大臣が認定するリスキル講座は、ITやデータの分野の専門的で実践的な講座です。認定とあわせて専門実践教育訓練の指定を受けた講座は、給付金の対象になります。
キャリアアップ支援事業は転職を目指す在職者の受講費用を補助する
経済産業省のリスキリングを通じたキャリアアップ支援事業は、キャリアの相談・講座の受講・転職の支援を一体で受けられる事業です。対象は、在職中で雇用主が変わる転職を目指している方に限られます。
補助は講座を提供する事業者に支払われ、受講者は負担が軽くなった価格で受講する仕組みです。補助の額は、以下のとおりです。
- 講座を修了した場合: 受講費用の2分の1に相当する額(上限40万円)
- 転職して1年間働き続けた場合: 追加で受講費用の5分の1に相当する額(上限16万円)
合計の上限は56万円です。キャリアの相談と転職の支援は、無料で受けられます。
受けられる講座は、プログラミングなどのデジタル分野を含む多様な分野です。今の会社で働き続けながらAIを学ぶ目的では使えない点に注意しましょう。
マナビDXは無料の講座も探せる
マナビDXは、経済産業省とIPAが運営するデジタル人材育成の講座の案内サイトです。デジタルスキル標準などへの対応を審査し、合格した講座だけを掲載しています。
初めて学ぶ方に向けた講座や、受講料が無料の講座も探せる点が特徴です。生成AIは注目ワードに挙げられており、AIの講座を探す入口に向いています。
AIリスキリングで失敗しないための注意点
注意点は、以下の4つです。
- 学ぶこと自体を目的にしない
- 基礎の知識だけで終わらせない
- 学ぶ時間を業務の中に確保する
- 制度の条件を申し込みの前に確かめる
学ぶこと自体を目的にしない
受講した人数や修了率だけを目標にすると、仕事のやり方が変わらないまま終わります。リスキリングは、新しい仕事ややり方に移るところまでを含む取り組みです。
学んだあとにどの業務をどう変えるのかを、始める前に決めておきましょう。
基礎の知識だけで終わらせない
AIの基礎を学ぶ研修は入口として必要ですが、基礎だけでは業務は変わりにくいものです。経済産業省の2024年6月の取りまとめも、企業の生成AIの活用が日常の業務への組み込みで停滞していると指摘しています。
基礎のあとに、自分の業務を題材にした演習を続ける設計が大切です。
学ぶ時間を業務の中に確保する
学ぶ時間を社員の自主性に任せると、忙しい人ほど後回しになります。業務の時間の中に学ぶ時間を設け、上司が参加を後押しする形が確実です。
人材開発支援助成金には、訓練中の賃金の一部を助成する仕組みもあります。
制度の条件を申し込みの前に確かめる
助成金や給付金は、申し込みや受講を始めたあとでは使えない場合があります。企業の助成金は、研修の開始前に計画を届け出る必要がある制度です。
個人の制度も、対象の講座や受講する人の条件が決まっています。金額や要件は年度で変わるため、最新の公式の情報で確かめてください。
AIリスキリングのよくある質問
よくある質問は、以下の4つです。
- AIリスキリングとは何ですか?
- 文系や未経験でも学べますか?
- 最大56万円の補助は誰でも受けられますか?
- 何から学べばよいですか?
AIリスキリングとは何ですか?
AIを前提にした仕事へ移るために、必要なスキルを学び直すことです。AIを開発する技術だけでなく、日々の業務でAIを使いこなす力も対象に含まれます。
文系や未経験でも学べますか?
学べます。DXリテラシー標準は、職種や年代を問わず、すべてのビジネスパーソンを対象にした学びの指針です。マナビDXにも、初めて学ぶ方に向けた講座が用意されています。
最大56万円の補助は誰でも受けられますか?
受けられません。経済産業省のキャリアアップ支援事業は、在職中で転職を目指す方が対象です。上限の56万円は、講座を修了して転職し、1年間働き続けた場合の額になります。
何から学べばよいですか?
仕事でAIを使う場面を1つ決め、実際に使ってみるところから始めます。基礎を無料の講座で学び、必要に応じて有料の講座や研修へ進む順番が負担の少ない進め方です。
AIリスキリングは仕事で使う場面を決めてから始めましょう
AIリスキリングは、AIを前提にした仕事へ移るための学び直しです。AIを活用する人材は不足が見込まれており、技術者に限らず全員に関わるテーマになりました。
成果を出すには、学ぶ前に仕事で使う場面を決めることが欠かせません。企業は目的と対象の業務を決め、業務を題材にした研修を選びます。費用は、企業なら人材開発支援助成金、個人なら教育訓練給付金などで抑えられる仕組みです。
制度の条件は、申し込みの前に公式の情報で確かめてください。まずは、AIに任せたい業務を1つ書き出すところから始めましょう。



