AI倫理とは?倫理的な問題の例と原則・企業が取り組む方法を解説

AI倫理の言葉を聞く機会が増えたものの、哲学の話のように感じて、自社の業務とどう関係するのかが分からない方も多いのではないでしょうか。AIを使って問題が起きたとき、会社がどこまで責任を問われるのかも気になるはずです。
この記事では、AI倫理の意味・倫理的な問題の例・主な原則・国内外の指針と法律・企業が取り組む方法を、総務省と経済産業省のガイドラインや国際機関の公式情報に沿って解説します。
記事を読めば、自社のAIの使い方で何を確かめ、何を決めておくべきかが分かる状態です。結論は、AI倫理は理念の話ではなく、偏り・プライバシー・誤情報などの問題を防ぐための実務です。方針を決め、AIの判断に人が関わる工程を残すことから始めましょう。
AI倫理とはAIを人と社会のために正しく使う考え方
AI倫理の基本は、以下の3つで押さえます。
- AIの開発と利用で守るべき価値と行動の規範を指す
- 日本の基本理念は人間の尊厳・多様性・持続可能性の3つ
- 生成AIの普及で利用する側にも関わる問題になった
AIの開発と利用で守るべき価値と行動の規範を指す
AI倫理は、AIを開発したり利用したりするときに、人と社会に害を与えないために守るべき価値と行動の規範です。法律で決まっていないことも含めて、何をすべきで何をすべきでないかを考えます。
ユネスコは、AIの発展が医療や教育に多くの機会を生む一方で、偏りの再生産や人権への脅威などの倫理的な懸念を生むと説明しています。
日本の基本理念は人間の尊厳・多様性・持続可能性の3つ
日本は2019年3月に「人間中心のAI社会原則」を定めました。総務省と経済産業省のAI事業者ガイドラインは、同じ原則にもとづく3つの価値を基本理念に掲げています。
1つ目は人間の尊厳が尊重される社会で、2つ目は多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会です。3つ目に、持続可能な社会が挙げられています。
ガイドラインは、人間がAIに過度に依存するのではなく、AIを道具として使いこなす社会を目指すと説明しています。
生成AIの普及で利用する側にも関わる問題になった
AI倫理は、以前はAIを開発する企業の課題と考えられてきました。生成AIが普及した現在は、AIを業務で使うすべての会社に関わります。
ガイドラインも、生成AIによって知的財産権の侵害や偽の情報の生成など、新しい社会的なリスクが生じていると指摘しています。
AIの倫理的な問題の例
AIの倫理的な問題の主な例は、以下の5つです。
- 偏りによって不公平な判断が生まれる
- プライバシーが侵害される
- 偽の情報や誤った情報が広がる
- 著作権などの権利が侵害される
- 判断の理由と責任の所在が分かりにくい
偏りによって不公平な判断が生まれる
AIは、学習したデータに偏りがあると、偏った判断をします。米国の国立標準技術研究所(NIST)は2019年に、99の開発元による189の顔認識のソフトウェアを評価した結果を公表しました。
2枚の写真が同じ人物かを確かめる照合では、別人を同一人物と誤る割合が、アジア系とアフリカ系の顔で白人の顔より高くなっています。差は、ソフトウェアによって10倍から100倍に及びました。
採用・融資・審査などにAIを使う場合は、特定の人が不利に扱われていないかを確かめる必要があります。
プライバシーが侵害される
AIは、大量の個人の情報を処理できます。本人が知らないうちに情報が集められたり、行動や好みが分析されたりするおそれがあります。
個人の権利や利益に重要な影響を及ぼす分野では、個人の尊厳を尊重して不適切な目的に使わないことが、ガイドラインの求める対応です。
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偽の情報や誤った情報が広がる
生成AIは、本物のように見える文章・画像・動画を誰でも作れるようにしました。ガイドラインは、AIが生成した偽の情報や誤った情報が、社会を不安定にするリスクが高まっていると指摘しています。
企業が使うAIが誤った案内をした場合の責任も問われています。カナダの審判所は2024年2月に、航空会社のチャットボットが誤った割引の案内をした件で、会社の責任を認める裁定を出しました。
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著作権などの権利が侵害される
生成AIが作った文章や画像が、既存の作品に似てしまう場合があります。学習に使われるデータの扱いをめぐる争いも起きています。
日本経済新聞社は2025年8月に、朝日新聞社とともに、生成AIの事業者を相手に著作権侵害の差し止めと損害賠償を求める訴訟を起こしたと発表しました。
判断の理由と責任の所在が分かりにくい
AIは、結論を出した理由を人が説明しにくい場合があります。AIの判断で不利益を受けた人に理由を説明できないと、信頼を失います。
問題が起きたときに、開発した会社・提供した会社・利用した会社のどこが責任を負うのかが曖昧になりやすい点も課題です。
AI倫理の主な原則
AI事業者ガイドラインは、すべての事業者に共通の指針として10の項目を挙げています。項目は以下の表のとおりです。
| 区分 | 項目 |
|---|---|
| 各主体が取り組む事項 | 人間中心・安全性・公平性・プライバシー保護・セキュリティ確保・透明性・アカウンタビリティ |
| 社会と連携して取り組む事項 | 教育とリテラシー・公正競争の確保・イノベーション |
中心になる原則を、以下の4つに分けて説明します。
- 人間中心は人の尊厳と自律を守る
- 安全性と公平性は害と差別を防ぐ
- プライバシー保護とセキュリティ確保は情報を守る
- 透明性とアカウンタビリティは説明と責任を果たす
人間中心は人の尊厳と自律を守る
人間中心は、すべての取り組みの土台になる原則です。ガイドラインは、少なくとも憲法が保障する人権や、国際的に認められた人権を侵さないよう求めています。
人の意思決定や感情を不当に操作することを目的にしたAIを、開発・提供・利用しないことも含まれます。AIに過度に依存するリスクへの対策も、人間中心の一部です。
安全性と公平性は害と差別を防ぐ
安全性は、AIが人の生命・身体・財産に危害を及ぼさないようにする原則です。AIの出力の正確性を含め、求められたとおりに十分に動くことが含まれます。
公平性は、人種・性別・国籍・年齢などを理由にした不当な偏見や差別をなくすよう努める原則です。ガイドラインは、AIだけに判断させず、適切な時点で人の判断を介在させる利用を検討するよう求めています。
プライバシー保護とセキュリティ確保は情報を守る
プライバシー保護は、個人情報保護法などの法令を守り、関係する人のプライバシーを尊重する原則です。
セキュリティ確保は、不正な操作によってAIの動きが意図せず変わったり止まったりしないようにする原則です。外部からの攻撃の手法は日々新しくなるため、最新の動向に注意するよう求められています。
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透明性とアカウンタビリティは説明と責任を果たす
透明性は、AIを利用している事実やAIの能力と限界などの情報を、関係する人に合理的な範囲で提供する原則です。後から検証できるよう、入力と出力の記録を残すことも含まれます。
アカウンタビリティは、説明の責任を果たすことを指します。責任者を決めること・関係者の間の責任の分担を明確にすること・記録を文書に残すことが、ガイドラインの挙げる取り組みです。
AI倫理に関する国内外の指針と法律
AI倫理に関する主な指針と法律は、以下の表のとおりです。
| 名称 | 主体 | 時期 | 性質 |
|---|---|---|---|
| OECDのAI原則 | 経済協力開発機構 | 2019年5月採択・2024年5月更新 | 国際的な原則 |
| AIの倫理に関する勧告 | ユネスコ | 2021年11月採択 | 国際的な勧告 |
| AI事業者ガイドライン | 総務省・経済産業省 | 第1.2版は2026年3月 | 拘束力のない指針 |
| AI法 | 欧州連合(EU) | 2024年8月発効 | 法律 |
各指針と法律の内容は、以下の4つです。
- OECDのAI原則は各国の政策の土台になっている
- ユネスコの勧告は193の加盟国が採択した
- 日本は拘束力のないガイドラインで自主的な取り組みを促している
- EUのAI法はリスクに応じて禁止や義務を定めている
OECDのAI原則は各国の政策の土台になっている
OECDのAI原則は、2019年5月に採択され、2024年5月に更新されました。OECDは、革新的で信頼でき、人権と民主的な価値を尊重するAIの利用を促す原則と説明しています。
価値にもとづく原則は、包摂的な成長と幸福・人権と民主的な価値・透明性と説明可能性・堅牢性と安全性・アカウンタビリティの5つです。日本のガイドラインも、OECDのAI原則などを踏まえて原則を構成しています。
ユネスコの勧告は193の加盟国が採択した
ユネスコは2021年11月に、AIの倫理に関する勧告を採択しました。ユネスコは、193の加盟国が採択した、AI倫理に関する初めての世界的な基準と説明しています。
勧告の中心は、AIが人権と人間の尊厳を尊重することです。透明性・公平性・環境の持続可能性・AIに対する人による監督などが、主な原則に挙げられています。
日本は拘束力のないガイドラインで自主的な取り組みを促している
日本のAI事業者ガイドラインは、法的な拘束力を持たない指針です。細かな行為の義務を定める規制は技術革新を妨げるおそれがあるとして、事業者の自主的な取り組みを促す考え方を取っています。
2025年には、AIの研究開発と活用の推進に関する法律が6月に公布され、9月に全面施行されました。同年12月には、法律にもとづく指針も定められています。
EUのAI法はリスクに応じて禁止や義務を定めている
EUのAI法は、2024年8月1日に発効しました。欧州委員会の説明によると、人の安全や権利への明らかな脅威と見なされるAIの利用は禁止の対象です。
禁止の対象には、人を点数で格付けする社会的な評価などが含まれます。健康・安全・基本的な権利に深刻なリスクを及ぼし得る用途は高リスクに分類され、2027年12月2日から厳しい義務の対象になります。
EUで事業を行う企業は、自社のAIの利用が対象になるかを専門家に確かめてください。
企業がAI倫理に取り組む方法
企業がAI倫理に取り組む方法は、以下の5つです。
- AIの利用に関する方針を決める
- 責任者を決める
- AIの判断に人が関わる工程を残す
- 記録を残して説明できるようにする
- 社員に教育を行う
AIの利用に関する方針を決める
最初に、自社がAIを何のために使い、何をしないかの方針を決めます。ガイドラインは、必要に応じてAIに関する方針を定めて公表することを挙げています。
大きな会社のような詳細な規程でなくても構いません。使う目的・入力してよい情報・人が確かめる範囲を、短い文書にまとめるところから始められます。
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責任者を決める
AIの利用について、説明の責任を果たす責任者を決めます。問題が起きたときに誰が判断し、誰が対応するかを先に決めておくと、初動が速くなります。
外部のAIサービスを使う場合は、提供する会社との契約で責任の分担を確かめてください。
AIの判断に人が関わる工程を残す
人の権利や利益に関わる判断を、AIだけに任せないようにします。採用の選考・取引の可否・顧客への回答などは、人が最終的に確かめる工程を残してください。
ガイドラインは、人がAIの判断をうのみにしないよう、AIの欠点を理解する訓練を受けることも対策に挙げています。
記録を残して説明できるようにする
AIに何を入力し、何が出力され、誰が確かめたかの記録を残します。記録があれば、問題が起きたときに原因を調べて関係者に説明することが可能です。
ガイドラインは、紙や特定の形式の文書である必要はなく、後から確かめられる形で記録が残っていればよいと説明しています。
社員に教育を行う
方針を決めても、社員が知らなければ守られません。AIの限界・偏りのリスク・入力してよい情報を、全員が学ぶ機会を作ります。
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AI倫理のよくある質問
AI倫理についてよく出る疑問は、以下の4つです。
- AIの倫理的な問題とは何ですか?
- AIの三原則とは何ですか?
- AI倫理は法律で決まっていますか?
- 中小企業もAI倫理に取り組む必要がありますか?
AIの倫理的な問題とは何ですか?
AIの開発や利用によって、人や社会に不利益が生じる問題を指します。偏りによる不公平な判断・プライバシーの侵害・偽の情報の拡散・権利の侵害・責任の所在の曖昧さが代表的な例です。
AIの三原則とは何ですか?
公的に定められたAIの三原則はありません。日本のAI事業者ガイドラインは、基本理念として人間の尊厳・多様性と包摂・持続可能性の3つの価値を掲げています。
原則としては、人間中心・安全性・公平性など10の項目が共通の指針に整理されています。
AI倫理は法律で決まっていますか?
日本では、AI倫理の中心になっているのは法的な拘束力のないガイドラインです。ただし、個人情報保護法や著作権法などの既存の法律は、AIの利用にも適用されます。
EUでは、AI法がリスクに応じた禁止や義務を法律で定めています。
中小企業もAI倫理に取り組む必要がありますか?
必要です。AIを使って誤った案内をしたり、顧客の情報を漏らしたりした場合の責任は、会社の規模に関係なく問われます。
大がかりな体制は必要ありません。方針を決める・責任者を決める・人が確かめる工程を残すの3つから始めてください。
AI倫理は方針づくりと人の確認から始めましょう
AI倫理は、AIを人と社会のために正しく使うための考え方です。偏り・プライバシー・誤情報・権利の侵害などの問題を防ぐために、国内外で原則と指針が整えられています。
まずは自社のAIの利用の方針を決め、責任者を定めましょう。人の権利や利益に関わる判断には人が確かめる工程を残し、記録と教育を続けることが、AIを安心して使うための土台になります。



