AI法とは?日本のAI新法の内容と罰則の有無・企業への影響を解説

AI法が施行されたと聞いたものの、自社に何が求められるのか分からない方も多いのではないでしょうか。AI新法やAI推進法、EUのAI法など似た言葉も多く、違反すると罰則があるのかも気になるはずです。
この記事では、日本のAI法の概要・作られた背景・主な内容・罰則の有無・企業に求められること・基本計画と指針・EUのAI法との違いを、法律の条文と内閣府の公表資料に沿って解説します。
記事を読めば、AI法が自社にどう関係するかが分かる状態です。結論は、日本のAI法はAIの研究開発と活用を進めるための法律で、罰則の規定はありません。一方で、事業者には国の施策に協力する責務があり、既存の法律は変わらず適用されます。
AI法とはAIの研究開発と活用を進めるための日本の法律
AI法の基本は、以下の4つで押さえます。
- 正式な名前は人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律
- 2025年5月に成立し9月に全面施行された
- 規制よりも活用の推進を目的にしている
- 全28条で4つの章からなる
正式な名前は人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律
AI法の正式な名前は、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律です。法律の番号は、令和7年法律第53号です。
内閣府は略称としてAI法を使っています。AI新法やAI推進法と呼ばれる場合もあり、指している法律は同じです。
2025年5月に成立し9月に全面施行された
AI法は、2025年5月28日に成立しました。同年6月4日に公布されて一部が施行され、9月1日に全面施行されています。
9月に施行されたのは、人工知能基本計画と人工知能戦略本部に関する部分です。
規制よりも活用の推進を目的にしている
AI法は、AIの利用を制限するための法律ではありません。第1条は、AIの研究開発と活用に関する施策を総合的かつ計画的に進め、国民生活の向上と経済の発展に寄与することを目的に掲げています。
内閣府の概要資料も、イノベーションの促進とリスクへの対応の両立を掲げる内容です。
全28条で4つの章からなる
AI法の本則は、28の条文と4つの章で構成されています。章の構成は、以下の表のとおりです。
| 章 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1章 総則 | 第1条〜第10条 | 目的・定義・基本理念・責務 |
| 第2章 基本的施策 | 第11条〜第17条 | 国が進める施策 |
| 第3章 人工知能基本計画 | 第18条 | 政府が定める計画 |
| 第4章 人工知能戦略本部 | 第19条〜第28条 | 内閣に置く本部 |
事業者に細かい義務を課す条文は少なく、国の体制と施策を定める条文が中心です。
AI法が作られた背景
AI法が作られた背景は、以下の3つです。
- 日本のAIの開発と活用が遅れている
- 多くの国民がAIに不安を感じている
- 既存の法律に加えて新しい法律が必要とされた
日本のAIの開発と活用が遅れている
内閣府の概要資料は、法律が必要な理由の1つ目に、日本のAIの開発と活用の遅れを挙げています。第3条も、研究開発を行う能力を国内に保ち、産業の国際競争力を高めることを基本理念に置きました。
AIは経済の基盤になる技術で、安全保障の面でも重要だと条文に書かれています。
多くの国民がAIに不安を感じている
概要資料が挙げる2つ目の理由は、多くの国民がAIに不安を感じている点です。第3条は、不正な目的や不適切な方法でAIが使われた場合に起こり得る事態を挙げています。
挙げられているのは、犯罪への利用・個人情報の漏えい・著作権の侵害などです。適正な実施のために、研究開発と活用の過程の透明性を確保する施策が必要だと定めています。
既存の法律に加えて新しい法律が必要とされた
概要資料は、イノベーションを促進しつつリスクに対応するには、既存の刑法や個別の業法に加えて新しい法律が必要だと説明しています。
AI法は、既存の法律を置き換える法律ではありません。既存の法律に、推進の体制と基本の考え方を加える位置づけです。
AI法の主な内容
AI法の主な内容は、以下の5つです。
- 基本理念
- 国と自治体・事業者・国民の責務
- 国が進める基本的施策
- 人工知能基本計画
- 人工知能戦略本部
基本理念
第3条は、AIの研究開発と活用を進めるうえでの基本理念を定めています。主な内容は、以下のとおりです。
- 研究開発を行う能力を国内に保ち、産業の国際競争力を高める
- 基礎研究から活用までの取り組みを総合的かつ計画的に進める
- 適正な実施のために、過程の透明性の確保などの施策を講じる
- 国際的な協調のもとで進め、国際協力で主導的な役割を果たす
国と自治体・事業者・国民の責務
第4条から第8条は、関係者の責務を定めています。国は施策を策定して実施する責務を負い、行政機関でのAIの活用も進めます。自治体は、地域の特性を生かした施策を担う立場です。
大学などの研究開発機関は、研究開発と人材の育成に努めます。国民は、AIへの理解と関心を深めるよう努めるとされました。
国が進める基本的施策
第11条から第17条は、国が進める施策を定めています。主な施策は、以下のとおりです。
- 基礎研究から実用化までの研究開発の推進
- 計算やデータの保管に使う施設と設備の整備と共用
- 適正な実施のための指針の整備
- 人材の確保と教育の振興
- 権利や利益の侵害が生じた事案の分析と対策の検討
- 国際協力と国際的な規範づくりへの参画
人工知能基本計画
第18条は、政府が人工知能基本計画を定めると規定しています。基本計画は、施策の基本的な方針と、政府が総合的かつ計画的に講じる施策を定めるものです。
計画の案は人工知能戦略本部が作り、閣議で決定されます。
人工知能戦略本部
第19条は、内閣に人工知能戦略本部を置くと定めています。本部長は内閣総理大臣で、すべての国務大臣が本部の構成員です。
本部は、基本計画の案の作成と実施の推進を担います。必要な場合は、関係する行政機関や自治体などに資料の提出や協力を求められます。
AI法に罰則はあるのか
AI法の罰則について押さえる点は、以下の3つです。
- AI法に罰則の規定はない
- 国は事案を分析して事業者に指導や助言を行う
- 既存の法律の罰則は変わらず適用される
AI法に罰則の規定はない
AI法の条文に、罰則を定める規定はありません。本則の28条と附則のどこにも、罰金や懲役などの定めは置かれていない法律です。
違反した事業者の名前を公表する規定も、条文には見当たりません。
国は事案を分析して事業者に指導や助言を行う
罰則がない代わりに、第16条が国の対応を定めています。国は、不正な目的や不適切な方法によるAIの研究開発や活用で、国民の権利や利益の侵害が生じた事案を分析します。
分析の結果にもとづいて対策を検討し、事業者などへの指導・助言・情報の提供などの措置を講じる内容です。
既存の法律の罰則は変わらず適用される
AI法に罰則がなくても、AIの利用が自由になるわけではありません。個人情報保護法や著作権法、刑法などの既存の法律は、AIを使った行為にも適用されます。
AIを使って他人の権利を侵害すれば、各法律の罰則や損害賠償の対象になります。
AIリスクとは?企業が知るべき主なリスクと対策・管理の進め方を解説
AI法が企業に求めること
AI法が企業に求めることは、以下の3つです。
- 国と自治体の施策に協力する
- AIを積極的に活用するよう努める
- 指針に沿って自主的に取り組む
国と自治体の施策に協力する
第7条は、活用事業者の責務を定めています。活用事業者は、AIを活用した製品やサービスを開発・提供する者と、事業活動でAIを活用しようとする者です。会社の規模による区別はありません。
活用事業者は、国と自治体が実施する施策に協力しなければならないと定められています。
AIを積極的に活用するよう努める
第7条は、活用事業者に対して、AIの積極的な活用にも努めるよう求めています。目的は、事業活動の効率化と高度化、新しい産業の創出です。
法律が事業者に求めているのは、利用を控えることではなく、適正に活用することだと読み取れます。
指針に沿って自主的に取り組む
第13条は、適正な実施のための指針を国が整備すると定めています。第13条にもとづく指針は、2025年12月19日に人工知能戦略本部が決定しました。
事業者向けの具体的な手引きには、総務省と経済産業省のAI事業者ガイドラインがあります。自社のAIの使い方の方針を作るときの土台になる資料です。
AIポリシーとは?盛り込む項目と企業の公開例・作り方の手順を解説
AI法にもとづく基本計画と指針
AI法にもとづく計画と指針で押さえる点は、以下の3つです。
- 最初の基本計画は2025年12月に閣議決定された
- 2026年7月に第Ⅱ期の基本計画が閣議決定された
- 適正性確保の指針は2025年12月に決定された
最初の基本計画は2025年12月に閣議決定された
AI法にもとづく最初の人工知能基本計画は、2025年12月23日に閣議決定されました。法律の全面施行から、約4か月後の決定です。
2026年7月に第Ⅱ期の基本計画が閣議決定された
2026年7月14日には、第Ⅱ期の人工知能基本計画が閣議決定されました。概要資料は、4つの基本的な方針を掲げています。
| 方針 | 内容 |
|---|---|
| AIを使う | AIの利活用を加速する |
| AIを創る | AIの開発力を戦略的に強化する |
| AIの信頼性を高める | AIガバナンスを主導する |
| AIと協働する | AI社会に向けて継続的に変革する |
計画には、中小企業や地方を含めたAIの活用の推進も盛り込まれました。基本計画は当面は毎年変更するとされ、AI法を含む制度も見直しを続ける方針です。
適正性確保の指針は2025年12月に決定された
AI法の第13条にもとづく指針の正式な名前は、人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針です。2025年12月19日に、人工知能戦略本部が決定しました。
AI事業者ガイドラインは、指針がAIに関わるすべての主体の自主的な取り組みを促すものだと説明しています。
日本のAI法とEUのAI法との違い
日本のAI法とEUのAI法の違いは、以下の表のとおりです。
| 項目 | 日本のAI法 | EUのAI法 |
|---|---|---|
| 性格 | 研究開発と活用の推進が中心 | リスクに応じた規制 |
| 事業者の義務 | 国の施策への協力など | リスクの段階に応じた義務 |
| 罰則 | 規定なし | 制裁金あり |
| 始まり | 2025年9月に全面施行 | 2024年8月に発効 |
押さえる点は、以下の3つです。
- EUのAI法はリスクを4段階に分けて規制する
- EUのAI法には高額の制裁金がある
- EUで事業を行う会社はEUのAI法の対象になる場合がある
EUのAI法はリスクを4段階に分けて規制する
EUのAI法は、2024年8月1日に発効した包括的な法律です。欧州委員会によると、AIのリスクを4段階に分け、段階に応じた義務を定めています。
許容できないリスクに当たる使い方は禁止されます。
EUのAI法には高額の制裁金がある
EUのAI法には、制裁金の定めがあります。禁止された使い方に違反した場合の上限は、3,500万ユーロです。会社の場合は、世界全体の年間売上高の7%と比べて高いほうが上限になります。
罰則の規定がない日本のAI法とは、大きく違う点です。
EUで事業を行う会社はEUのAI法の対象になる場合がある
EUのAI法は、EUの中に拠点がない会社にも適用される場合があります。EUの市場にAIを提供する会社や、AIの出力がEUの中で使われる場合が対象です。
EUに顧客がいる会社は、日本のAI法だけでなく、EUのAI法も確かめてください。
AI法のよくある質問
よくある質問は、以下の4つです。
- AI法とは何ですか?
- AI法に罰則はありますか?
- AI法はいつから施行されていますか?
- 中小企業にも関係がありますか?
AI法とは何ですか?
日本のAI法は、AIの研究開発と活用を進めるための法律です。正式な名前は、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律です。EUにも、AI法と呼ばれる別の法律があります。
AI法に罰則はありますか?
日本のAI法に、罰則の規定はありません。国は、権利や利益の侵害が生じた事案を分析し、事業者に指導や助言を行います。EUのAI法には、制裁金の定めがあります。
AI法はいつから施行されていますか?
日本のAI法は、2025年6月4日に公布されて一部が施行されました。全面施行は、同年9月1日です。
中小企業にも関係がありますか?
関係があります。事業活動でAIを活用しようとする者は、会社の規模に関係なく活用事業者に当たります。第Ⅱ期の基本計画にも、中小企業のAIの活用の推進が盛り込まれました。
AI法の内容を踏まえて自社のAIの使い方を確かめましょう
日本のAI法は、AIの研究開発と活用を進めるための法律です。罰則の規定はなく、国の体制と施策を定める条文が中心になっています。
一方で、事業者には国の施策に協力する責務があります。個人情報保護法や著作権法などの既存の法律は、変わらず適用される点にも注意が必要です。
まずは、自社で使っているAIと用途を書き出し、指針やガイドラインに沿っているかを確かめましょう。法律の解釈に迷う場合は、弁護士などの専門家に相談してください。



