人事評価にAIは使える?活用できる業務とリスク・導入の進め方を解説

評価の時期になると、コメントの記入や面談の準備に追われ、本来の仕事が進まないと感じていないでしょうか。評価する人によって基準がばらつき、社員の不満につながっていることに悩む方も多いはずです。
この記事では、人事評価でのAI活用の現状・活用できる業務・メリット・リスク・実際に起きた紛争・国内外のルール・導入の進め方を、厚生労働省の委託調査や公的な指針に沿って解説します。
記事を読めば、人事評価のどこにAIを使い、どこを人が担うかを決められる状態です。結論は、AIは評価の準備と点検を助ける道具として使い、評価の最終判断は人が行います。社員への説明と、評価の理由を説明できる状態を先に整えましょう。
人事評価でのAI活用の現状
人事評価でのAI活用の現状は、以下の3つで押さえます。
- AIが評価の最終判断を行う国内の事例は確認されていない
- 人事の領域でAIを使う国内の企業はまだ少ない
- 人事評価に不満を持った経験のある人は約7割にのぼる
AIが評価の最終判断を行う国内の事例は確認されていない
厚生労働省の委託で行われた調査の報告書が、2025年3月に公表されています。人事の領域でAIを提供する企業や利用する企業に聞き取りを行った調査です。
報告書によると、聞き取りをした企業の中に、AIが人の評価の最終判断を行っている事例は見られませんでした。一部の提供企業からは、他社の紛争の事例を踏まえて、人の評価を行うAIのサービスの提供を控えているとの意見も出ています。
人事の領域でAIを使う国内の企業はまだ少ない
同じ調査の事前の調査では、6,700社に尋ねて593社から回答を得ています。人事の領域でAIを活用している、または活用していたと答えた企業は56社でした。
報告書は、2024年9月の時点では、人事の領域で多くの国内企業がAIを利用している実態ではないと推測しています。導入を急ぐ必要はなく、使い方を見極めてから始められる段階です。
人事評価に不満を持った経験のある人は約7割にのぼる
AIへの関心が高まる背景には、今の人事評価への不満があります。日経BPが紹介したパーソルキャリアの調査機関の調査では、人事評価の結果に不満を持った経験がある人は約7割でした。
厚生労働省の委託調査でも、AIの活用で担当者による評価のばらつきを解消できたとの意見が紹介されています。評価の公平さを高める手段として、AIに期待が集まっています。
人事評価でAIを活用できる業務
人事評価でAIを活用しやすい業務は、以下の5つです。
- 評価コメントの下書きと表現の点検
- 面談の記録と要約
- 評価のばらつきの点検
- 目標の設定の支援
- 制度に関する社員からの質問への回答
評価コメントの下書きと表現の点検
評価者が書いた箇条書きのメモから、評価コメントの下書きを作る使い方です。事実と評価の理由がそろっているか、感情的な表現が入っていないかを点検させることもできます。
評価の内容を決めるのは人で、AIは文章を整える役割にとどめます。
面談の記録と要約
評価の面談の内容を記録し、合意した事項と次の目標を要約する使い方です。面談の記録が残ると、次の評価のときに振り返りやすくなります。
面談を録音する場合は、事前に社員の同意を得てください。
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評価のばらつきの点検
評価者ごとの点数の付け方を集計し、極端に甘い評価や厳しい評価がないかを確かめる使い方です。部署の間で基準がずれていないかの点検にも使えます。
AIは気づきを出す役割で、ずれをどう直すかは人が話し合って決めます。
目標の設定の支援
社員が書いた目標の案を、具体的で測れる表現に直す手伝いをさせる使い方です。厚生労働省の委託調査でも、AIが社員に仕事への考えを尋ねて助言する、キャリアの相談の事例が紹介されています。
制度に関する社員からの質問への回答
評価の制度や手続きについての社員からの質問に、規程をもとに答える使い方です。同じ調査では、人事部門への社内の問い合わせに、AIがよくある質問を参照して答える事例が挙げられています。
人事評価にAIを使うメリット
人事評価にAIを使うメリットは、以下の3つです。
- 評価者の作業時間を減らせる
- 評価のばらつきに気づける
- フィードバックの質をそろえられる
評価者の作業時間を減らせる
評価の時期には、コメントの記入や面談の準備に多くの時間がかかります。下書きや要約をAIに任せると、評価者は社員と向き合う時間を増やせます。
評価のばらつきに気づける
人による評価には、評価者の癖や思い込みが入ります。AIによる傾向の集計は、人が気づきにくいずれを見つけるきっかけです。
ただし、厚生労働省の委託調査には、AIの評点が低くても会社に必要な特徴を持つ応募者がいるとの意見もあります。人の判断は、引き続き必要です。
フィードバックの質をそろえられる
評価者によって、フィードバックの丁寧さには差が出ます。AIで文章の構成を整えると、どの社員にも理由と期待が伝わる内容にしやすくなります。
人事評価にAIを使うリスク
人事評価にAIを使うリスクは、以下の5つです。
- 判断の根拠が分からなくなる
- 過去の評価の偏りを引き継ぐ
- AIの提案を過信してしまう
- 同意のない個人データの入力が法令違反になるおそれがある
- 社員との紛争につながる
判断の根拠が分からなくなる
AIの判断は、結果に至った理由を人が理解できない場合があります。厚生労働省の委託調査は、AIの判断がブラックボックスになり、意図せず評価に不適切な偏りが生じる可能性を指摘しています。
評価の理由を社員に説明できない状態は、人事評価として成り立ちません。
過去の評価の偏りを引き継ぐ
AIは、学習したデータの傾向を再現します。過去の評価に偏りがあると、公平でない判断が続けて使われるおそれがあります。
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AIの提案を過信してしまう
人には、自動で出された提案を信じすぎる傾向があります。報告書が自動化バイアスとして挙げているのは、AIの提案を過信して優先してしまう可能性です。
評価者がAIの下書きをそのまま採用すると、実質的にAIが評価を決めている状態になります。
同意のない個人データの入力が法令違反になるおそれがある
評価に関する情報は、社員の個人データです。個人情報保護委員会は、本人の同意を得ずに生成AIのサービスへ個人データを入力する場合の注意を呼びかけています。入力したデータが回答の出力以外の目的で扱われると、個人情報保護法に違反する可能性があります。
入力したデータが学習に使われない契約かどうかを、必ず確かめてください。
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社員との紛争につながる
評価の方法が社員に知らされないままAIを使うと、不信感から紛争に発展するおそれがあります。国内でも、賃金の査定へのAIの利用をめぐって、労働組合と会社が争った例があります。
日本IBMの賃金査定のAIをめぐる和解
人事評価へのAIの利用をめぐる国内の紛争として、日本IBMの例を以下の3つの点から説明します。
- 労働組合がAIの評価項目の開示を求めた
- 和解で評価項目の開示と説明が合意された
- 透明性の確保が導入の前提になる
労働組合がAIの評価項目の開示を求めた
労働組合の声明によると、日本IBMは2019年8月に、賃金の査定に自社のAIを導入したと社員に発表しました。労働組合は、AIに考慮させる項目や、AIが上司に示す提案の内容の開示を求めています。
会社が開示を拒んだため、労働組合は2020年4月に、東京都労働委員会に救済を申し立てました。
和解で評価項目の開示と説明が合意された
声明によると、2024年8月1日に東京都労働委員会で和解が成立しました。会社は、賃金の査定でAIに考慮させる項目のすべての標題を、労働組合に開示するとしています。
低い評価などに疑義が示された場合に、必要なAIの提案の内容を開示することも、合意に含まれています。上の内容は労働組合の側の発表にもとづくものです。
透明性の確保が導入の前提になる
日本IBMの例は、AIを評価に関わらせるときに、何を考慮しているのかを説明できることが前提になると示しています。社員に知らせずに導入したり、説明を拒んだりすると、紛争のもとになります。
人事評価のAIに関する国内外のルール
人事評価のAIに関係する主なルールは、以下の3つです。
- AI事業者ガイドラインは人の判断を介在させるよう求めている
- 個人情報保護委員会は個人データの入力に注意を促している
- EUのAI法は雇用の分野を高リスクに分類している
AI事業者ガイドラインは人の判断を介在させるよう求めている
総務省と経済産業省のAI事業者ガイドラインは、公平性の指針の中で人の判断の介在を求めています。AIだけに判断させず、適切な時点で人の判断を介在させる利用を検討する内容です。
個人の権利や利益に重要な影響を及ぼす分野でAIによる分析を行う場合は、個人の尊厳を尊重し、不適切な目的に使わないことも挙げられています。ガイドラインに法的な拘束力はありませんが、判断のよりどころになります。
個人情報保護委員会は個人データの入力に注意を促している
個人情報保護委員会は2023年6月に、生成AIのサービスの利用に関する注意喚起を公表しました。個人情報を含む指示を入力するときは、利用の目的の達成に必要な範囲かを確かめるよう求めています。
EUのAI法は雇用の分野を高リスクに分類している
EUのAI法は、採用や労働者の管理に使うAIを、高リスクの用途に挙げています。欧州委員会によると、雇用を含む高リスクの分野の規則は、2027年12月2日から適用されます。
EUで人を雇用する企業は、自社の利用が対象になるかを専門家に確かめてください。
人事評価にAIを導入する進め方
人事評価へのAIの導入は、以下の5つの手順で進めます。
- AIを使う範囲と人が判断する範囲を決める
- 社員に目的と使い方を説明する
- 入力するデータの扱いを決める
- 評価者に使い方と注意点を教える
- 結果を点検して見直す
AIを使う範囲と人が判断する範囲を決める
最初に、AIを使う作業と、人が判断する作業を分けます。コメントの下書き・面談の要約・ばらつきの点検はAIが助け、評価の決定は人が行う分担が基本です。
社員に目的と使い方を説明する
AIを使う目的・使う場面・AIが考慮する情報を、導入の前に社員へ説明します。労働組合がある会社は、事前に協議の場を設けてください。
説明を尽くすことが、社員の納得と紛争の予防につながります。
入力するデータの扱いを決める
評価の情報を入力してよいAIのサービスを決めます。入力したデータが学習に使われないこと・保存される場所・閲覧できる人の範囲を確かめます。
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評価者に使い方と注意点を教える
評価者には、AIの下書きをそのまま使わず、自分の判断で直すことを徹底します。AIの提案を信じすぎる傾向があることも、あらかじめ伝えておきます。
結果を点検して見直す
導入した後は、評価の結果に特定の属性への偏りが出ていないかを点検します。社員からの疑問や不満を受け付ける窓口を設け、運用を見直します。
人事評価のAIのよくある質問
人事評価のAIについてよく出る疑問は、以下の4つです。
- 人事評価をAIに任せてもよいですか?
- AIによる評価は公平ですか?
- 人事評価にAIを取り入れた事例はありますか?
- 自己評価をAIで書いてもよいですか?
人事評価をAIに任せてもよいですか?
評価の最終判断をAIに任せることはすすめられません。国の指針は人の判断を介在させるよう求めており、国の委託調査でも、AIが最終判断を行う国内の事例は見られませんでした。
下書きや点検など、評価を助ける用途で使ってください。
AIによる評価は公平ですか?
公平とは限りません。AIは過去のデータの偏りを引き継ぐことがあり、判断の根拠が分かりにくい場合もあります。
人による評価のばらつきに気づく道具としては役立ちます。
人事評価にAIを取り入れた事例はありますか?
厚生労働省の委託調査では、社内で働く人の評価の場面で、AIと対話した内容から人の資質を評価するサービスの事例が紹介されています。
労働組合の声明によると、日本IBMは賃金の査定にAIを導入し、のちに評価項目の開示について労働組合と和解しました。
自己評価をAIで書いてもよいですか?
自分の実績のメモを渡して、文章を整えてもらう使い方はできます。会社のルールで、評価の情報をAIに入力してよいかを先に確かめてください。
実績の内容は、自分で事実を確かめて書きます。
人事評価のAIは準備と点検の支援から始めましょう
人事評価でのAIは、コメントの下書き・面談の要約・ばらつきの点検など、評価を助ける用途で活用できます。評価の最終判断をAIに任せると、根拠の不透明さや偏りから、社員の不信と紛争を招きます。
まずはAIを使う範囲と人が判断する範囲を決め、社員に目的と使い方を説明しましょう。評価の理由を人が説明できる状態を保つことが、AIを人事評価に生かす条件です。



