法務のAI活用を解説!契約書チェックの使い方と弁護士法の注意点

契約書の確認が法務の担当者に集中し、回答を待つ営業の部門から急かされて困っていないでしょうか。AIに契約書を確認させたいものの、法律に触れないのか、機密が漏れないのかが気になる方も多いはずです。
この記事では、法務でAIを活用できる業務・AIによる契約書の確認の仕組みと限界・弁護士法との関係・注意点・導入の進め方・サービスの選び方を、法務省のガイドラインや各社の公式情報に沿って解説します。
記事を読めば、法務のどの業務にAIを使い、どこを人と弁護士が担うかを決められる状態です。結論は、AIは契約書の一次確認や下書きを助ける道具として使い、最終の判断は人が行います。紛争に関わる案件は、弁護士に相談してください。
法務でAIを活用できる業務
法務でAIを活用しやすい業務は、以下の5つです。
- 契約書の一次確認
- 契約書や社内文書の下書き
- 法令や社内規程の調査
- 契約書の管理と検索
- 社内からの法務相談への一次回答
契約書の一次確認
契約書の確認は、リーガルチェックとも呼ばれる業務です。AIに契約書と自社の確認の基準を渡すと、基準から外れている条項や、抜けている条項を指摘させられます。
DeNAは、AIを前提に業務の流れを組み替え、契約書などの法務の確認で90%の効率の改善を実現したと報告しています。人が最初から全文を読む作業を、AIの指摘を確かめる作業に変えられる点が利点です。
契約書や社内文書の下書き
秘密保持契約などの定型の契約書や、社内への通知文の下書きにもAIを使えます。自社のひな形と取引の条件を渡し、ひな形に沿った文案を作らせます。
出来上がった文案は、必ず法務の担当者が確認してから使ってください。
法令や社内規程の調査
関係する法令や社内の規程を探し、要点を整理する作業もAIが助けます。法務省のガイドラインでも、文献の調査や法的な問題点の検討を支援するサービスが、AIの法務支援の例です。
AIは存在しない条文や判例を示すことがあります。必ず元の法令や公的な資料で確かめてください。
契約書の管理と検索
締結した契約書から、契約の期間・更新の期限・相手方などの項目を取り出して一覧にする作業に使えます。更新の期限の見落としを防ぐ台帳づくりに役立ちます。
社内からの法務相談への一次回答
営業や現場の担当者からのよくある質問に、社内の規程をもとにAIが最初に答える使い方です。答えられない内容や判断が必要な内容だけを、法務の担当者に回します。
AIによる契約書の確認の仕組みと限界
AIによる契約書の確認について、以下の3つを理解しておきます。
- 自社の基準と照らして違いを指摘する
- 汎用の生成AIと法務専用のサービスがある
- AIは最終の判断を代わりに行えない
自社の基準と照らして違いを指摘する
AIは、渡された基準と契約書を照らし合わせて、違いを見つけます。Claude Coworkの公式サイトは、受け取った契約書のフォルダと自社の基準書を指定すると、契約書ごとに基準から外れた箇所を条項と結び付けて示す使い方を紹介しています。
基準が文章になっていないと、AIは一般的な観点でしか指摘できません。自社が譲れない条件を先にまとめておくことが、精度を上げる前提です。
Claude Coworkとは?できること・料金・Codeとの違いを解説
汎用の生成AIと法務専用のサービスがある
契約書の確認には、ChatGPTやClaudeなどの汎用の生成AIを使う方法と、法務専用のサービスを使う方法があります。法務専用のサービスには、弁護士が監修した確認の観点やひな形が組み込まれています。
LegalOn Technologiesは、弁護士が監修する法務に特化したAIエージェントを提供すると発表しました。契約の審査の受付・契約書の作成と確認・締結後の管理などを支援するとしています。
AIは最終の判断を代わりに行えない
AIは、取引の背景や相手との力関係を知りません。どの条件を受け入れ、どの条件を交渉するかは、事業の事情を知る人が決める必要があります。
法務省のガイドラインも、サービスを提供する事業者に対して、弁護士に代わる判断を提供するものと思わせる表現を慎むよう求めています。
AIの法務サービスと弁護士法の関係
AIの法務サービスと弁護士法の関係は、以下の4つで押さえます。
- 弁護士でない者が報酬を得て法律事務を扱うことは禁止されている
- 法務省は2023年と2026年にガイドラインを公表した
- 書面の作成や審査の支援は一般に抵触しないと考えられている
- 紛争を前提にしたサービスは抵触し得る
弁護士でない者が報酬を得て法律事務を扱うことは禁止されている
弁護士法の第72条は、弁護士でない者が、報酬を得る目的で法律事件に関する法律事務を業として扱うことを禁じています。AIで契約書の確認を行うサービスが、禁止に当たるかどうかが議論されてきました。
問題になるのは、主にサービスを提供する事業者の側です。
法務省は2023年と2026年にガイドラインを公表した
法務省は2023年8月に、AIを用いた契約書の作成・審査・管理を支援するサービスと弁護士法の関係についてのガイドラインを公表しました。企業の法務の機能の向上に役立つことを踏まえ、何が当たり得るかの見通しを立てやすくする目的です。
2026年8月21日には、内容を補う新しいガイドラインが公表されました。生成AIの技術の進展を踏まえ、契約書に限らないビジネス分野の法務支援サービスを対象にしています。
書面の作成や審査の支援は一般に抵触しないと考えられている
2026年のガイドラインの概要は、一定の条件を満たす場合、一般に弁護士法に抵触しないと考えられるサービスを挙げています。主なものは、以下の表のとおりです。
| 分類 | サービスの例 |
|---|---|
| 調査 | 文献の調査・法的な問題点の検討の支援 |
| 書面 | 書面の作成・審査・管理の支援 |
| 管理 | 社内研修やコンプライアンスの業務の支援 |
| 調査への対応 | 内部通報の調査や社内調査の支援 |
| 会議 | 株主総会や取締役会などの会議の業務の支援 |
条件は、紛争のある案件で使わせることを目指した設計でないことと、不適切な利用を避ける体制が整っていることです。
紛争を前提にしたサービスは抵触し得る
ガイドラインの概要は、抵触し得る例も示しています。すでに表面化している法的な紛争の処理を目指して設計されたサービスが、例の1つです。
訴状などの裁判所に出す書面や、和解の契約書の作成を行うサービスも挙げられています。争いのある案件は、AIのサービスではなく弁護士に相談する領域です。
2023年のガイドラインは、弁護士が自ら内容を確かめ、必要に応じて直す方法で使う場合は違反しないとしています。
法務でAIを使うときの注意点
法務でAIを使うときの注意点は、以下の4つです。
- 契約書の機密と個人情報の扱いを確かめる
- AIの誤りを前提に根拠を確かめる
- 紛争に関わる案件は弁護士に相談する
- AIの指摘をうのみにしない
契約書の機密と個人情報の扱いを確かめる
契約書には、取引の条件や相手方の情報など、機密の情報が含まれます。相手方と秘密保持の約束をしている場合は、外部のAIのサービスに入力してよいかを先に確かめてください。
入力したデータが学習に使われない契約かどうかも、確認が必要です。
生成AIの情報漏洩はなぜ起こる?実際の事例と防ぐ対策・入力後の対応を解説
AIの誤りを前提に根拠を確かめる
AIは、実在しない条文や判例を、もっともらしく示すことがあります。AIが挙げた根拠は、元の法令や公的な資料での確認が必須です。
法務省のガイドラインも、サービスの提供者に対して、根拠や参照元の情報を表示するようすすめています。根拠が表示されるサービスは、確認がしやすい点で有利です。
AIのハルシネーションとは?原因と対策・防ぐプロンプトを解説
紛争に関わる案件は弁護士に相談する
相手方と争いになっている案件や、争いになる見込みが高い案件は、AIに頼らず弁護士に相談してください。ガイドラインも、弁護士への相談をすすめる仕組みを備えるよう、サービスの提供者に求めています。
AIの指摘をうのみにしない
AIが問題なしと答えても、見落としがないとは限りません。金額の大きい契約や、自社にとって初めての種類の契約は、担当者が全文を読んで確かめます。
AIの確認は、人の確認を置き換えるものではなく、確認の漏れを減らす補助です。
法務へのAIの導入の進め方
法務へのAIの導入は、以下の5つの手順で進めます。
- 対象にする文書の種類を絞る
- 自社の確認の基準を文章にする
- 入力してよい情報とサービスを決める
- AIの指摘を人が確かめる流れを作る
- 効果を測って対象を広げる
対象にする文書の種類を絞る
最初は、件数が多く内容が定型に近い文書から始めます。秘密保持契約や業務委託の契約など、自社でよく扱う種類を1つ選んでください。
自社の確認の基準を文章にする
次に、選んだ種類の契約で確認している点を書き出します。受け入れられる条件・交渉する条件・受け入れられない条件を分けて書いたものが、AIに渡す基準です。
基準を文章にする作業は、担当者による判断のばらつきを減らす効果もあります。
入力してよい情報とサービスを決める
契約書を入力してよいAIのサービスを決めます。データの扱いが明確な法人向けのプランや、法務専用のサービスが候補です。
生成AIの社内ルールの作り方を徹底解説!盛り込む項目とひな形も紹介
AIの指摘を人が確かめる流れを作る
AIが一次確認を行い、法務の担当者が指摘を確かめて回答する流れにします。AIの指摘と人の判断が違った点を記録しておくと、基準の改善に使えます。
効果を測って対象を広げる
確認にかかった時間と、回答までの日数を、導入の前後で比べます。効果を確かめられたら、対象の文書の種類を広げます。
法務向けのAIサービスの選び方
法務向けのAIサービスを選ぶときは、以下の3つを確かめます。
- 弁護士が設計や監修に関わっているか
- 根拠や参照元が表示されるか
- データの扱いと管理の体制が明確か
弁護士が設計や監修に関わっているか
法務省のガイドラインは、サービスが法的な判断に及び得る場合について、弁護士の関与をすすめています。弁護士の資格を持つ人が設計を監修するか、実質的に関与する形です。
サービスの説明に、弁護士の関与が書かれているかを確かめてください。
根拠や参照元が表示されるか
AIの指摘に、根拠になる条文や参照した資料が表示されるかを確かめます。根拠が表示されないサービスは、人が確かめる手間が増えます。
データの扱いと管理の体制が明確か
入力した契約書が学習に使われるか・保存される場所・削除の方法を確かめます。法務省のガイドラインも、個人情報保護法などの法令に沿った取り扱いを、提供者に求めています。
法務のAIのよくある質問
法務のAIについてよく出る疑問は、以下の4つです。
- AIによるリーガルチェックは違法ですか?
- 無料の生成AIで契約書を確認してもよいですか?
- 法務の仕事はAIでなくなりますか?
- AIだけで契約書を作成してもよいですか?
AIによるリーガルチェックは違法ですか?
法務省のガイドラインは、一定の条件を満たす書面の作成・審査・管理の支援のサービスを、一般に弁護士法に抵触しないと考えられるものに挙げています。
紛争を前提にしたサービスは、抵触し得るとされています。自社の利用が心配な場合は、弁護士に確認してください。
無料の生成AIで契約書を確認してもよいですか?
機密や個人情報を含む契約書を、無料の生成AIに入力することはすすめられません。入力した内容が学習に使われる設定になっている場合があります。
内容を伏せたひな形の確認など、機密を含まない範囲にとどめてください。
法務の仕事はAIでなくなりますか?
確認や下書きの作業はAIが助けるようになりますが、どの条件を受け入れるかの判断と、相手との交渉は人の仕事として残ります。
AIの指摘を確かめ、事業の事情に合わせて判断する役割は、今後も必要です。
AIだけで契約書を作成してもよいですか?
AIが作った文案を、確認せずに使うことはすすめられません。誤った条項や、自社に不利な条件が入るおそれがあります。
法務の担当者か弁護士が、内容を確かめてから使ってください。
法務のAI活用は定型の契約書の一次確認から始めましょう
法務では、契約書の一次確認・下書き・調査・管理などにAIを活用できます。法務省のガイドラインは、書面の作成や審査の支援を一般に弁護士法に抵触しないものとし、紛争を前提にしたサービスは抵触し得るとしています。
まずは定型の契約書を1種類選び、自社の確認の基準を文章にしてAIに渡しましょう。AIの指摘を人が確かめ、紛争に関わる案件は弁護士に相談する体制が、安全に使うための条件です。



